経営理念は不要。創業期のテック・スタートアップにおける経営理念へのスタンス

マネジメント

会社をやるならごくごく当たり前に作られるようになった「経営理念」ですが、起業のとき、あるいは、テック・スタートアップに「経営理念」はそもそも必要なのでしょうか。

理念? 必要に決まってんじゃん!

企業がホームページを作るのが当たり前になり、いわゆるコーポレートサイトが一般的になるのと同時に、企業理念がきちんと表現されるようになりました。おそらく多くの企業で、社外に伝える機会がなかったり、経営者の胸の内にあったりしたものが、見えるようになりました。ホームページを作るときにテンプレートにはめるかのように会社紹介や企業理念を書くために、聞かれると出てくるという状況が日本全国で起こったのでしょう。

また、ほとんどの経営書には、企業理念が大事だ、と書かれています。あえてびっくりさせるために「経営理念なんていらない」というブログやセミナーがあるようですが、ほとんどの人が企業理念が大事だと思っているから、その逆張りがインパクトを持って通用するのです。

たしかに、会社は「公器」、つまり、自分のモノではなく公の器(うつわ)なので、多くの人を包み込める理念をもって、会社を経営・運営すべきだ、と言われるとそんな気もしてきます。

スタートアップに経営理念は必要ない。

えいちゃんのヒトコト
えいちゃんのヒトコト

最初期・シード期のスタートアップに経営理念は必要ない。

しかし、私はあえて、シード期のスタートアップに経営理念は必要ない、と言います。
重要だと思うことから順に、理由を挙げます。

理由1)必要なのは商売

創業、シード期になんとしても必要なのは「商売」です

「商売」とは、何かを売って対価を得る、売り上げを立てることです。売上が立って経費を引いた後にお金が残る状態、すなわち、利益が出る状態なら、その事業を継続していくことができます。

経営理念は、マネジメント手法の中で強調されてきた経緯があるので、会社の内部・社員に向けて作られていて、あるいは、社員を通して社会・世の中に出ていく、という形をとっているものがほとんどすべてです。

しかし、シード期のスタートアップにはそもそも社内に人間があまりいません。

そして、商売に必要なのは、おカネを払ってくれる「顧客」「お客様」「クライアント」「ユーザー」です。お客様に向かってメッセージをつくりサービスをつくり製品をつくることに集中しなければ、売り上げが立たず利益が出ず、事業を継続できなくなってしまうのです。

よって、社内に向かってメッセージングする経営理念は、優先度がものすごく下がる、つまり、そんなことをやっているヒマは普通ない、ということです。

理由2)ピッチするときにはあると便利だが、それはお客様に関係ない

会社の事業を投資家などに説明するときには、経営理念があるとベンリです。

プレゼンの手法も広く普及して洗練されているので、スタートアップ企業の若いCEOが自らの原体験から経営理念を創り出して事業をやっている、というプレゼンを聞くと感動を呼ぶことも少なくありません。

しかし、そもそも、売り上げが立って利益が出て、ほんの少しでもプラスになっているなら、投資家は必要ありません。身の丈の範囲内でビジネスを続け少しずつ発展させていく、つまり、手金の範囲内でビジネスを続けていけることが何より大事です。この「手金理論」が実現できている間は、そもそも誰かに感動的な事業の説明をする必要がなく、むしろお客様を喜ばせることに集中したほうが事業がうまくいくことは明らかです。

これは、かなり大きな企業になっても成立する理論です。
実際、3000人を超える企業に入社したとき、そこに経営理念と言えるものがなかった経験があります。10年以上増収増益を続けていてその後もさらに成長を続けた超優良企業です。形だけの理念はありましたが、それは私に言わせれば一段ブレイクダウンした目標であって理念ではありませんでした。それが経営者から説明された記憶もありません。

理由3)わかりにくい。

経営理念は、理念と呼ばれるだけあって抽象的です。抽象的な理念を立てて具体論・行動理論を作っていくのがそもそもの目的・利用用途なので、抽象的で懐がある程度大きくなければ役に立ちません。

具体的でなく抽象的であるということは、すなわち、わかりにくくなるのです。

わかりにくいものを、わざわざお客様に見せて混乱させる必要はあるのでしょうか。

映像作品やゲームのオープニングのような、作品の雰囲気を作る導入コピーとしては成立しますが、商売、サービス、プロダクトにわかりにくいキャッチコピーは必要ありません。

経営理念のたった一つの効用:チームの結束力増大

たった一つ効用があるとすれば、チームで経営理念を考えるプロセスを共有することで、チームの結束力が強くなることです。

シード期のテック・スタートアップは、たいていは2~3人の創業メンバーだけで、多くとも数人から10人程度の人数規模でしょう。この少人数を一定期間、なんらかの形で熱狂的に集中させなければ、なかなか事業など立ち上がるものではありません。

何か月かの短い期間であっても、盛り上がるときもあればテンションが落ちるときもあります。壁にぶち当たるなどテンションが下がってしまったときに、あらためて原点に返ってみんなでサービスやプロダクトを見つめなおす時間をとることは、猪突猛進しなければならないシード期であっても、よい効果をもたらすでしょう。

ただし、その経営理念をそのままお客様に伝える必要はありません。
お客様に奉仕するのがスタートアップ・事業の目的であって、抽象的なメッセージで混乱させることは避けたほうが無難です。

まとめ

最初期・シード期のスタートアップが経営理念についてどう考えるべきかをまとめました。

経営理念は、そもそも発展段階によって変えていくべきものなので、最初はそれぞれの胸の内にあってもいいのです。

お役に立てば幸いです。

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